― 本格的に経営を学んでいるのはここ最近ですか?
安田
そうです。『チーズ工房那須の森』の現状を学んで、それを次に進めているなかで、いろいろと学ばせてもらってます。今度クラウドファンディングを行うのですが、そういうのも1人のチーズ職人ではなかなか経験できないので。
― 経営みたいな視点になると、ひたすらチーズだけに向き合うわけにもいかず「人」が入ってくるじゃないですか。この「人」っていうのが可能性でもあるし、ときにややこしいわけで……
安田
僕、人と働くのは最初すごい嫌だったんですよ(笑)
― そうだったんだ(笑)。
安田
ほんとにソロプレイヤーだったので……。研修も1人だし、大学の時も人と群れないでやってきて。
― 僕もそんな感じだったので、分かります。
安田
山川さんにベトナムで言われた言葉を今も覚えてて。「安田君だったら、一人でやったらできると思う」って言われたんですよね。まだ学生なのにそういってもらえて。「でも1人でやるほうが早くはできるけど、人とやるほうが遠くにいけるよ」って言われて。
― ええ。
安田
自分が代わってやればすぐにできてしまうこともあるけど、それだと1でしかなくて。
自分がやって周りがいて、それが1.3や1.5になっていく。そういう働き方ができるようになってくると、自分のやりたいことっていうのをもっと広げられて大きくできるって言ってもらえたんです。いまはその言葉の意味を痛感しているところです。
― 人に助けられもしますよね。
安田
はい。周りの人たちに助けられているから、成立している部分が大きいなぁって思いますね。最近はそのあたりの考え方は変わってきてますね。
― それはいいメンバーに巡り合えたとも言えますね。
安田
ほんとにそうですね。
― もちろんいろんなことが起きて大変なところもあると思いますが。
安田
仕事をしていて、なんでそんなことになっちゃったんだろうってこともあります。予想だにしない事件とか。そのときは大変だぁって思うんですけど……(笑)。
― そうですよね。
安田
うん……でもそれがあっても、やっぱり人とやったほうが自分のやりたいことができるんだろうなって思うようになって。
― いつか独立したときの風景のなかにはちゃんと「一緒に働く誰か」いるんですね
安田
それで言うといま迷ってることがあって……。どれくらいの規模感を目指すのかっていうことです。小規模な牧場の数を増やして広げていくのか、増やそうとせずに自分だけでいいっていう形にするのか。
― なるほど。
安田
たぶん途中で変わるような気がするんですよね。立ち上げのときは自分が成立する規模感でいいなぁって思っても、ある程度やっていくと、人と一緒にもっと広げたいって思うようになりそうで。
― そんな予感があるんですね。
安田
なんとなく予感してます。
― 『那須の森』でいまから数年間働いたらまた考え方も変わってくるでしょうね。
安田
うん、変わってくるだろうなぁ。ベトナムで山川さんに「いつか自分で工房をつくって小規模な酪農をしながらチーズをつくる事業体をやっていけたらいいなぁって思ってます」って言ったら、「ふーん、それ10軒に増やせばいいのに」って言われたんです(笑)。「それ各地域にあったほうが面白いでしょ、例えば愛知にあって、島根にあって、和歌山にあってとなったらもっと面白くない?」って言われて。「おお……そうか……」ってなったのを思い出しました。
― 安田さんのなかでは目指す「自由」の何合目くらいにいま来ていますか?
安田
割と仕事の感じは自由に楽しくやっているんですけど、一点、最近働くようになってから思うようになったのは「自由」って精神的な自由と、もう1つは経済的な自由があると思ったんですよね。
― ええ。
安田
やりたいことをやって、夢を追っても、清く貧しく頑張るのは長続きしなかったり、その人じゃないとできなかったりするのかもなぁと思って。
― いつまでも1のままで。
安田
なので、今思っているのはチーズ職人って楽しいなぁって思うんですけど、もっと職人がばーんって稼げるって言うか……憧れる仕事になったらいいなぁって。
― うんうん。
安田
職人が稼げるような働き方が自分でつくれるようになったら、もっとチーズ職人をやりたいって言う人が出てくるかもしれない。経済的な自由まで達成できて一番理想の姿ではないかと。
― そういう場所にはきっと才能が集まってきやすいですよね。
安田
はい。だから、「経営者」と「職人」という分かれ道で「経営者」のほうを勉強する道を進んでいますが、最終的には両者をくっつけて、稼げる職人になるってけっこう大事だなと思っているんですよね。
― なるほど。働いている職人にも給料がちゃんと払えて。
安田
はい。そういう風にできたらいいなぁって。
― それは確かに、テレビ番組を見たときの安田少年が抱いた直感的な「自由」からより一歩踏み込んでますね。
安田
そうかもしれないです。なんか……経済的にきついなぁってなるとやりたいことをやっていてもつらくなりそうで。
― 景色いいし、働き方も文句ないけど、稼げていないみたいな。
安田
それはもったいないなぁって思ってて。
― 目指すは、精神的な自由と経済的な自由の重なるその真ん中ですね。
安田
そうなんですよね。そこの姿が、一番かっこいいんだろうなぁと。最近はそれも僕の目標の1つになっています。
― それが達成出来たら、めぐりめぐって社会的な価値にもなりますね。
安田
結局こだわっている人が稼げないと仕事自体無くなっちゃいますよね。農学部でまわりを見ていたら「農業をサポートします」みたいな業種に就く人が多かったんです。農業好きだけど、農業のきつくて稼げないイメージも影響していると思います。でもなんかそれって農家さんの苦労とか美談に乗っかっているだけだよなぁって……正直思ってしまうこともあって。そういうこともあって、せっかく興味がある人がいても経済的な理由でやれないのはもったいないなと感じていました。
― そのためにも稼げる職人をつくるというチャレンジがあると。
安田
経営目線でコスト下げて利益を出そうとすると、職人業ではクオリティが下がる恐れもあります。反対に職人目線でクオリティにこだわると原価が上がったり、つくっても売れなかったりする恐れも。いずれにせよそれでは続きません。
職人から経営の方に足を踏みいれていて、両方の気持ちが分かってくるなかで、そのバランスをぎちっととるのがかなり重要だと感じることが増えました。
― その両面で見ていくのって、大変そうですね。一見、矛盾してるところがあるから、職人と経営者、どっちの「俺」が判断するんだみたいな。
安田
最高なものをつくれる技術を持って、自分が最高だと思うものをつくって、それをきっちり売るためには、つくることと売ることの両方ができる必要だと思います。いまは事務仕事も増えてきたんですけど、1種類は自分で作ってて次のコンテストも狙っていますね。
― 安田さんが職人としてつくったチーズがあるから、経営者としての安田さんがそれを自信もって売れる。
安田
たぶん、小さい工房を増やすとか、小さい牧場を増やすってそういうことなのかなって思っています。プレイヤーをしながら経営者をやる。そんな人が各エリアに1人ずついて、みんなが集まったときに大きな輪ができるというか……。
自分がいま経営を勉強して、今度は独立して「職人」と「経営」の両方をやるときに、たぶん稼げる職人になることを目指すと思います。それが楽しくできるようになったら、今度はそれを次世代の人、一人、二人……と伝えていって……、そうしているうちに引退する年になるんでしょうね、きっと(笑)。
― そこまで考えているとは。
安田
なんとなくのイメージなんですけど。
― そのときの安田さんが「自由」を感じていたらいいなと思います。
安田
それができてたら「自由」ですね、きっと。
(おわり)
取材日:2021年9月5月
インタビュアー・編集:中田 達大
撮影・デザイン:中田 奈緒美
安田さんが工房長を務める
『チーズ工房那須の森』のHPはコチラ!
とってもかわいいデザインのページで、
見ているだけで楽しい気持ちになります。
チーズはECでもご購入いただけます!
そして安田さんは
クラウドファンディングにも挑戦!
見事達成されました!
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『チーズ工房那須の森 』
住所:栃木県那須塩原市戸田738-4
Tel:0287-73-5420
営業時間 9:30~16:00
営業情報はTwiiterにて
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