#1 チーズ工房那須の森 工房長 安田翔吾さん③

安田
そこから研修で全国をまわって。島根、広島、岩手、その当時、那須にも来ました。

―　自分でアポイントを取るんですか？

安田
そうですね。全部自分で連絡して。

―　すごいなぁ。住み込みですよね。

安田
いろいろなパターンがあります。日帰りだったり、住み込みだったり。
でも学校に行きながらだと、夏休みの期間が最大なので、
休学しないと１年間研修するというのは難しいんですね。
だから大学入学の時点で３年から４年になるタイミングで休学するというのは決めていて。

―　最初から決めていたんですね！

安田
そうですね。休学の時に何をするかを決めるために、
大学時代の最初の3年間を過ごそうって思っていたので。

―　なるほど。結局、休学の1年間はどこへ行ったんですか？

安田
まずイタリアに行きました。
それもテレビで見たんですよ。
ヨーロッパの山岳地帯で牛12頭くらいを家族で飼っていて、
朝に牛を山にあげて、帰ってきたらみんなでお祭りみたいに迎え入れて……という風景を。

―　まさに絵に描いたような。

安田
ほんと、そうです。
非農家からした牧場のイメージ。

イタリアに行ったら、ちゃんとその通りだったんですよね。

―　おぉ、「自由」があったんですね。

安田
「自由」がそこにあって。
そのあとに研修の派遣先を斡旋してくれるプログラムに応募しました。
イタリアはビザの関係で3カ月しかいれないので、
1年間スイスに行こうかなと思って。

それがトラブルに繋がってしまうんですが……

―　え、何があったんですか。

安田
そのプログラムは派遣先の選択肢が意外と限定的で。自分の行きたい場所の希望が合わなくても、そこに行くしかないものでした。入ってから知りましたが、トマト農家を希望している人がパプリカ農家に派遣されるみたいな話もあって。

―　安田さんの場合はどうだったんですか？

安田
僕はスイスの田舎の山のほうで
小さく放牧酪農をやっているところへ行きたかったのですが、
派遣されたのは牛が50頭、豚が100頭以上、リンゴの木が100本生えている
複合経営をやっている農家でした。
それを２人か3人くらいでやっていて。

―　めちゃくちゃハードだ……。

安田
でもお金払って行くって決めちゃったから、
自分で自分になんとか理由をこねくり回して納得させて行ったんですよね。

―　わかります。

安田
とはいえ、やっぱりやりたいことと違いますし、
こちらは研修生のつもりでも、受け入れ先からすれば僕は1人のワーカー。
そこにミスマッチもありました。
最終的には、ハードワークで身体を壊してしまって。
腕を壊して、両腕が痺れて3ヶ月間動かなくなりました。

―　ええ……！

安田
ずーっとやりたいと思ってて「自由」に憧れてきたものが、ことごとく違うように思えて、このときは、けっこう悩みました。
腕も壊しちゃったし。
牛に蹴られて怪我しながらやって、
一生懸命勉強もしてきて、行きつくところがこれなのかなぁ……と。

迷いは、そう思ったときに生まれました。
「あ、これ違うかもしれない」って。

―　走ってきたけど一度立ち止まったと。

安田
なんか……「研修生はこうあるべき」「若いうちはこうあるべき」って
無理に思っていたんです。
そういう考え方がそもそも「自由」を求めるうえで、
一番避けていたいことではあったんですが。
でも必要な苦労としてそこは通過しなくちゃいけないって思いこんでいて。

―　ええ。

安田
そのときに友達に相談したら「なんでそこを通るの？」って言われたんですよ。
僕は当時、理不尽なことを避けたいから「自由」に憧れて、
でもその目標を達成するには理不尽を我慢しなければならないって思っていました。
仕方ないって。精神論みたいですが。
でもその友達が
「避けているんだから、避けていけばいいじゃん」
「なんであえて突っ込むんだ、お前は」
って言ってくれて。

―　いい友達ですね。

安田
そこでぴしっと頭を切り替えて、プログラムを辞めますと言いました。

―　辞めるのも勇気が入りますね。

安田
いろいろ言われたりもしました。
「本人の力不足で辞退しました」という評価をいただいて。

―　理不尽を避けるというのは、自分で選択するということでしょうか。

安田
プログラムに応募するっていうことは自分で派遣先を選んでないんですよね。斡旋団体が選んだところに……。

―　行くしかないのか。

安田
そのときにすごい後悔しましたね……
自分で選ばなかったことに。
高校受験の時に散々思ったのに、ここでまたやっちゃったなぁって。

―　中学3年生のときの出来事とリンクするんですね。

安田
腕の医療費もプログラムのお金も払って。
でも自分のお金じゃなくて親に払ってもらっちゃっていたので、
なおさら申し訳ないですよね。
自分の選択を誤って、人に迷惑もかけて。
自分で選択するってことを決めたのにどこか選択できずにいました。

途中、僕は流されていたんです。