― 2021年にオープンした「吉田村ビレッジ」にはいろいろなお店が入っています。
伊澤
基本的に自分たちの「あったらいいな」から考えていますね。うちの奥さんは東京出身なんですが、そういう人をこっちに連れてきたときは、どこかで負い目を感じていたわけですよ。
― ええ。
伊澤
じゃあせめて、最低限こういうお店があれば田舎暮らしが楽しくなるよねというアイテムとして、パン屋が欲しいとか、コーヒー豆が買えるお店が欲しいとか、おしゃれなお花屋さんが欲しいとか。イタリアンも「代行を使わなくていい距離感の場所に飲み屋さんが欲しい」っていうところからです(笑)。
― なるほど!自分たちの「あったらいいな」から日常的な賑わいをつくっていこうとされているんですね。
伊澤
「いろんな人が集まってくる場所」ってありますよね。昔もそうだったと思うんですけど、結局はなにかしらの「発端」があって街や村っていうのは広がりを見せていくはずだよなぁって。
― 「発端」になる場所だと感じました。
伊澤
でもいいんです。10年でも20年でも、僕が目の黒いうちは、まだ吉田村残っているな、くらいで。この蔵も80年ずっと地域の歴史を刻んできて、あと20年で100歳じゃないですか。さらに30年、40年って残っていって「ここがもう村ですわ」って感じであり続ければ、この地域に来てくれる人たちもいるだろうし。仕事が生まれていれば、人が地域から流出しないような仕組みにもなりえます。
― 流出を止めるだけでなく、外から人が入ってくるかもしれないですよね。
伊澤
そう。地域の活力ってやっぱり人だから。働ける人、若い人がここに興味を持って入ってきてくれるように雇用を増やしていきたいですね。とはいえ、私たちのところだけでは限界があるじゃないですか。なので、まわりの空き家で「じゃあ私、ここで何屋さんやってみようかな」って人が徐々に増えてくると、ここの集落内で広がりがどんどん出てくる。「ここはなんかいつも人が来ているね」ってなればいいかなって。
― そうなると一歩ずつ村のイメージに近づいていきますね。
伊澤
海外の街や村ってお城や教会などを起点につくられている場所も多いじゃないですか。あれって、拠点があって、みんながそのまわりで住んでいて、村のなかで経済がまわる仕組みができていますよね。
― ええ。
伊澤
日本で言うと里山もそうで、何もないがゆえにそこにとりあえずそろっている。重病になったら離れた場所に行く必要あるけど、風邪くらいなら病院もあるし、郵便局もある。その街に住んでいる人が買物に行く街の商店という仕組みもある。ただ、このあたりもそうですが、拠点というのが集約されていない場所もあります。吉田村も、そもそもが磯部村など50人くらいいれば村として成立していた集落の集合体で、割と分散してしまっている地域。その場所で新しく拠点をつくろうとしているので、難しさを感じつつも……それはしょうがないよねって思っています(笑)。
― 伊澤さんたちの新しい動きが、「発端」や「拠点」になっていくといいですね。
伊澤
村のアイデンティティとして、この地域に暮らす方たちの間で「あそこはね……」ってずっと語られるようなランドマークになれたらいいなって思います。
(つづきます)